遺留分放棄
Aさんは、ある個人医院に職員としてお勤めの方です。
最近院長である養父が亡くなったが、養母からは遺産分割の話は全くないとのこと。
そこで20年ほど前に裁判所で作成したことのあった書類を思い出し、相談にお見えになりました。
件の書類を見てみると「遺留分放棄」についての審判書でした。「養父母に言われて作ったものだが、その意味は何も分かっていなかった。」とのこと。
「これは被相続人の生前に予め遺留分を放棄するとするものですが、これだけではあまり意味がありません。あなたに対して遺産を相続させないとの遺言書とセットで初めて意味を持つものですから、遺言書があるのではないでしょうか?」とアドバイスし、「遺言書があるか否か調べてみてください。」とお願いしました。
その後、「遺言書が発見された。」と言うのでAさんから再度お話をお聞きしましたが、遺言書には「Aさんには全く遺産を与えない。」旨記載されております。これでは、Aさんは何も相続できません。
Aさんは、実子の居なかった医師の養子となって三十年余りになります。養父母からまともに子ども扱いを受けなかったにも拘らず、「子どもなんだから」と薄給で残業代もなしに働かされてきました。体よく安い労働力として利用されてきてしまったようです。
遺言書を見たときのAさんの悔しさは、想像に難しくありません。そもそも「遺留分の放棄」については、養父母からの強制で行われることがないようにとの趣旨で、家庭裁判所が決定を下すようになっています。Aさんの場合は裁判所のチェックがうまく働かなかった悲しいケースと言わざるを得ません。
養父母は、あちこちに別荘を所有するなど多額の資産を有しているご様子。Aさんに対する同情を禁じ得ませんでした。